昔作った問題(1)冷遇されているヘロンの公式を題材にした問題

もう数学の問題や試験を作ることはないだろうということで,身バレしなさそうな範囲で過去に作った問題を公開してみる。

問題

四角形ABCDにおいてAB=4, BC = 3, CD=6, DA=7, AC=5とする。この四角形の面積を求めよ。

問いたかったこと

以下の3点が問いたいこと。

  • 与えられた辺の長さなどの状況を整理し,図を自分で描くなどして状況をつかめるか。
  • 四角形を三角形に分割すれば良いことに気付けるか(考え方だけは別の問題で教えている)。
  • ヘロンの公式が適用できることに気付く(既習 or 同時に配布した公式集)。

さらに2つのうち1つの三角形は直角三角形になので小学生でも面積計算できる,と気付けばボーナスもある。

考え方はなんとなく説明していたが,問題としては初見という状態にして出した。(数学的な見方・考え方で観点を取りたかったので)

以下背景などのマニアックな趣味の話。

ヘロンの公式を厚遇した授業をしていた

大学受験を前提にすると,ヘロンの公式は無意味だという風潮がある。3辺からcosを求める場合なら(手計算の場合)ヘロンの公式より辺の値にルートが入っても使えるし,思考力も鍛えられる,という主張である。また,ヘロンを教えると公式代入マシーンになるので教育的な意味がないともいえる。

しかし,文化的に大事なことは「3辺の長さがわかったら面積は求めることができる」というメッセージである。cosからsinのごちゃごちゃがわからなくても,ヘロンの公式であればこれを体現することができる。明らかにこっちの方が,多くの人に3辺の長さかわかったら面積は求めることができるというメッセージを伝えやすい。

また,私は秋山先生のお言葉を深く愛する人である。多角形など色々な図形は適当に三角形にぶったぎって長さ測って計算すればその面積を出せる,ということを実感しておくことが大切である,というある文庫本の記述を見て深くうなずいていた。なので,授業でもヘロンの公式は素晴らしい,という授業をしての流れのとどめとして出したのがこの問題である。

その他の事項

公式集を配布

思考問題なので,公式がわからないからできませんは封じたい。そこで,次の2つの公式を書いた紙を配布した。

  •  S =\dfrac{1}{2} bc \sin A
  •  S = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}, \quad s = \dfrac{a+b+c}{2}

さらに,両方の公式に対して数値例を示して代入の仕方まで丁寧に説明しておいた。

周辺事項は繰り返しやった

さて,この問題を完全初見センス問題にするのは,真面目な人がかわいそうである。ゆえに,それまでの授業で準備はしておいた。

まず,多角形を三角形に分割するというアイデアは繰り返し扱った。

  • 平行四辺形や内接する多角形の面積を出す教科書問題を厚めに扱って,定期試験にも出すときっちり予告して出題。
  • 休暇前の授業では秋山先生の本のような「多角形は三角形にわけて辺をはかってこの公式にいれてやれば原理的には面積を出せるということにここで感動してほしい」みたいな話を雑談風にしつつヘロンの公式を扱っている。
  • 小テストで適当に描いた五角形の図を与えて,この図形のおおよその面積を定規を用いて求める方法を説明せよ,という問題を出しておく。

さらに,小テストや課題で単純なヘロンの公式当てはめ問題も扱っている。

そのうえでこの問題を出したわけである。習ったことで解けるわけがないと文句付けられたら,以上を全部説明するつもりだった。

頑張って解けたとしても裏があるというオチをつける

こういったかなり薄いヒントを頼りにして問題を解き切った人はほめてあげる,というのが本来の教育者である。しかし,私はそうではない。解けた人に,これ3,4,5だからヘロンいりませんと断言するのである。もちろん,直接そういう声をかける場合は人は選んでやるけどね。。。。

なお,3,4,5にしたのは作問側のテクニカルな事情もある。試験解答の図を作るときに直角が一つあると図が描きやすい(座標に持ち込む場合も楽)とか,検算しやすいとか。

なお,昔書いたtikzで3辺を指定した三角形を描く方法は,この問題の回答を描くために研究をしたものである。