某社6年の算数教科書をみながらなぜデータを並べ替えてから処理しない?と思う(1)

データについて、情報の新で指導することが高級すぎる。どう考えても、単純な処理は、算数・数学で表計算を使ってきた前提で話が考えられているとしか思えない。

この点は、このブログでも何度も批判している。しかし、批判するだけでは生産的ではない。算数・数学の扱いでどう扱うかも考えてあげないとかわいそうということである。そこで、まずは現行の教科書の扱いを調べてみよう、ということで教科書を読書をした記録を以下書いていく。

6年の教科書に、データの扱いについてそれらしき単元があったので、その単元で見ていく。

教科書会社名・単元名など露骨に授業研究などするときに入力されるであろうワードで検索エンジンからヒットしないように、少しぼかして書く。

以下はT社のH27年発行小6の教科書のデータである(本来はちゃんと社名書くべきだが、社名をキーワードにした検索でひっかけたくないので)。

指導事項と想定時間数

Web上にある指導計画例によると、扱いとしては

  • 代表値による比較(2時間・復習と度数分布表をみることへの動機付け)
  • ドットプロット・度数分布表(3時間)
  • ヒストグラム(3時間)

の8時間扱いのようである。

平均値は5年で指導済

平均値は5年で指導済という前提で話は進む(知らなかった)。すなわち、手計算で平均値の意味を理解させる、といった指導はしなくて良いことに注意しておく。

扱われているデータ

ニワトリ小屋が2つあって、その2つの小屋のニワトリが卵を産んだという設定である。その設定で、ある1日に産んだ卵の大きさについて考察しようということである。

小屋Aのデータ

53 48 58 63 65 58 53 56 58 57 60 55 67 50 62 57

小屋Bのデータ

50 63 54 74 63 45 54 67 60 47 68 52 57

なお、最後まで、ほぼこのデータのみで押し通す。すなわち、演習問題ほぼゼロである。びっくりな扱いである。

1つのデータでデータ分析の流れを体験させる、という意味で、徹頭徹尾1つのデータで押す、というのはK社の高校の教科書でも似たような扱いである。

ただ、この方式には重大な欠点がある。データが個々のパーツを習得させるために最適化されたものでないため、個々の指導事項の習得が難しいのである。

導入・代表値の比較(2時間)

1つのデータだけでわかることを見る

まず小屋Aのデータのみでわかることを話し合おうということになっている。最大・最小・合計・平均を求めることを示唆している。

しかも、「最大」「最小」という単語は小学生は使ってはいけないらしく、「いちばんおおきな」というまだるっこしい書き方をしている。こんな扱いで小学校に統計を下ろしても社会と接続できないだろ、と突っ込みたくなる。「最大」「最小」って言葉使えなくて、どうやって実際のソフトを使うのと思ったり思わなかったり。

2つのデータを比較する

次に2つのデータを比較しようということになる。考えよう風で「こうしたら良いんじゃないか」と吹き出しで色々でてくるのだが、こんなの初見で中学生すら思いつかないだろう?と思う。

結局、話し合いなどさせず教科書の小屋Aと小屋Bの統計量の値を埋めて終わりというのが実際の指導であろう。

データのディスプレイがとんでもない

ここまでの指導事項を理解するために、のんびりと教科書のデータを眺めてみようとする。しかし、まったく何も読めない。データのディスプレイの方法がとんでもないからである。

紙面を節約するためか、きつきつでデータが並べられているのである。データのNo.に相当する部分を丸数字で書いて、その直後にデータを書いてを繰り返している(さすがにこれは貼り付けられない)。

要は

①23 ②52 ③ 31 .....
⑩32 ......

という形で並んでいるのである。

横一列か縦一列に並んでいない上に、丸数字も目に飛び込んでくる。そんなデータを目視して何を発見しろというのだろうか?

また、教科書は書き込みもしにくい。いきおい、手でデータをノートに縦1列に写してから書き込んで考察するのか?意味不明である。

並べ替えたデータを使って何が悪い?

この導入では、人間が見にくい形にわざわざ加工した生のデータを見て、それを使ってひたすら話し合う。はっきりいって何もわからない。ここでは「何もわからない」ことをわからせるために導入しているのだろうけど、それなら話し合いに時間をかける必要はない。

並べ替え済のデータを与えれば少し有意義な時間が過ごせそうでは。。。

並べ替え済のデータを与えれば、少しだて有意義な話し合いができそうである。

小屋A

48 50 53 53 55 56 57 57 58 58 58 60 62 63 65 67

小屋B

45 47 50 52 54 54 57 60 63 63 67 68 74

このデータを見れば、気の利いた小6なら

  • 小屋Aと小屋Bのサンプルサイズの違い(なんとなく)
  • Aは50台のデータがほとんど
  • Bは50台と60台が半々かな?
  • 小屋Bのみ70台のデータがある
  • 小屋Bの68と74はけっこう離れている

ぐらいもわかりそう。そして、そういうのに気づかせるのが本来の話し合いでは・・・

後の指導事項ではあるが、10ごとに区切って線を入れて比較しそうな子どもも出てくるかもしれない。

また、最小値・最大値などは並べ替えた上のデータを見れば3秒でわかる。

実データだったら並べ替えますよね・・・・とりあえず

この程度のサンプルサイズのデータの分布の特徴を把握するために、序盤でする作業の一つは並び替えである。外れ値がないかとか、なんとなく偏ってないかとか並べ替えで目視確認である。

ヒストグラム書けば良いんだけど、Excelとかだとめんどいし(2013以前のバージョン・2016でもグラフの挿入のボタンの位置を探すのが億劫)、描いたヒストグラムが一発でばしっとはまるかもあやしい。

手作業論者を軽くつぶしておく(詳細はあとできっちり潰す)

手作業が意義あるという論がでてきそうなのでそれを潰しておく。

ここでのねらいとの関係

まず、このサンプルサイズで平均を手計算することは無価値である。サンプルサイズが大きい場合は、コンピュータを使って良いと指導要領解説にも書いている。

平均を手計算することによる意味の理解の有用性はある。しかし、それは実データでやる必要はない。また、そもそも、その指導事項は5年で指導済の事項である。ここでの指導事項ではない。

ここで要求されている指導事項は、T社のWebサイトにあるおもな評価規準によると

  • 平均で比べることのよさに気づいている(関)
  • 資料の特徴を調べるときに、平均を用いることがあることを理解している(知)

となっている。この評価基準に到達するためには、平均を手計算する必要は一切合切ない。

むしろ手計算ではこの指導事項に逆に到達できないという屁理屈すら立つ。平均で比べることのよさは「簡単に1つの数字に要約できる」ことにあるはずだが、手でやると簡単でもなんでもないし。

コンピュータを使えない

ここで並び替えていないデータを与えてはならないと言い出す一派がいそうである。そういう一派は「子どもはコンピュータを使いこなせるようになるとは限らないので手でやらせるべき」である。

確かに、複雑なことをしないと並べ替えができないなら、その主張はあるかもしれない。しかし、並べ替えにはそれはあてはまらない。「データを1つの列に打ち込んで言って、一番上の部分ででA->Zボタンを押すだけ。」の一言で指導できる。この単純な並べ替えでつまづく人を見たことがない。それすら危ない子どもは、そもそも算数についてこれてない。

各種試験でも並び替えることは要求されていない。

平均についても、average関数やオートサムボタンならハードルが高いの言い訳は成立する。しかし、データを全部選んで下側にある平均値を見るという奥の手がある。さすがにその手でつまづく人はみたことない。

さらに正論で追い打ちをかけるなら、情報活用能力の育成が総則で求められている以上、実習をやって表計算でこの程度のことをできるようにさせるのも指導事項に含まれていると考えるべき、ということすら言える。

次回以降、教科書の指導事項を並べ替え済のデータでやるとどうなるか?を書いていく。